いけプロ
レスパイトハウス「やまぼうし」さんにインタビュー:記事起こし
“レスパイトハウス「やまぼうし」さんにインタビュー”を記事化しました!
参加できなかった方も、ぜひ、こちらをご覧ください。
※zoomイベントでは、「北海道で暮らす医療的ケア児の未来を拓くプロジェクト」の概要を運上よりお話ししました。概要は、こちらをご覧ください。
レスパイトハウス「やまぼうし」
登壇者:医療法人財団はるたか会 専務理事 飯倉いずみ
あおぞら診療所
1999年に、千葉県松戸市で、在宅医療を提供する医療機関としてスタートし、当初から、小児の在宅医療も提供しています。
松戸市は、松戸市立病院という小児医療センターがあるので、千葉県のなかで、医療的ケア児が比較的多い地域です。
松戸市の実態調査で、約80名の医療的ケア児がいるということがわかっています。
あおぞら診療所の患児は約70名なので、松戸市の医療的ケア児のほとんどを、あおぞら診療所がみているという状況です。
「海の見える森」やレスパイト旅行
2007年に開催された日本緩和医療学会で、小児の緩和のシンポジウムがありました。
「緩和」と聞くと、「がん」を思い浮かべると思いますが、WHOでは「命を脅かされる状態」と定義されています。
2009年に、イギリスにあるヘレン・ダグラスハウスのシスター フランシスとスタッフが来日し、東京と大阪で講演があり、シスター フランシスとお会いしました。
そして、この頃、ヘレン・ダグラスハウスをモデルとし、古民家を活用して医療的ケア児をお預かりする“海の見える森”をスタートさせ、4組のレスパイト旅行も実施しています。
ヘレンダグラスハウス
1000年以上の歴史を持ち、イギリス最古の大学があるオックスフォード、その街中の広い修道院の美しい庭の中に立つのが、世界で最初の子どものホスピス。
ホスピスと言っても、実際は、重い病や障害のある子どもたちとご家族のためのレスパイトハウスであり、地域の方々の協力で運営され、子どもたちが、まるで、おばあちゃんの家に行くように、そこに行くのが楽しみで、ご家族も一緒に癒され、休むことができる「家」です。
日常支援のためのレスパイト
年1回のレスパイト旅行ではなく、日常支援のためのレスパイトが必要であるという思いが、大きくなってきていました。
福祉型レスパイトを選択
医療機関に短期入所をすると、普段のお母さんのケアと違うことや、環境の変化で、体調を崩してしまうということが、多々あります。
そのため、医療型短期入所という選択肢は、私たちにはありませんでした。
福祉型短期入所が可能かというと、制度も整備されていないので、数年間模索してきました。
生活支援のサービスとして、福祉型という選択をしました。
「やまぼうし」準備期間
- 2019年に準備会を開始し、29回開催(家族会や訪問看護ステーション、設計事務所などにも参加してもらってきました)
- 2020年8月に、松戸市長にサポートしてもらえないかと要望の申し出
- 開設までの間に、地域の方にむけた説明会を3回開催
- 利用児は体験宿泊を実施。(児やお母さんが“お泊まり”に慣れる・お母さんからケアを伝授してもらう)
「やまぼうし」のコンセプト
「やまぼうし」は、自分の家の延長線上にあり、将来の自立に向けた支援の場でもあります。
医療的ケア児のお母さんスタッフ、ケアのトレーニングを受けている普段関わりのあるスタッフ、利用児をみている訪問看護師、緊急時には主治医が対応するという体制をとっています。
また、お母さん方は、子どもを預けることに対して「申し訳ない」という気持ちを抱いてしまうので、子どもたちが楽しむ場であれば、そのような気持ちにならなくて済みます。
負い目を感じない預かり方が必要であると考えて、準備してきました。
誰でも普通の生活が保証され、生活の一部となれる施設。
医療的ケア児が「行きたい」「楽しい」と思えて、母が安心して預けることができる施設。
優しさや温もりが感じられる施設。
そして、子どもたちが地域の中で生活していける地域社会を作っていくことを、目指しています。
「やまぼうし」施設の概要
- 福祉型短期入所
- 10床:3人部屋が2部屋、個室が4部屋
- 福祉避難所としての役割:活動室でも10名を預かることができる
- 木造
2022年6月25日に祝賀会を行い、7月1日にOPENしました。
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「やまぼうし」の目的
人員確保・人員育成
医療的ケア児のケアの経験のある介護職は多くありません。
介護職向けの医療的ケアのマニュアルはほぼ存在していないので、お母さんからケアを伝授してもらいつつ、施設内でも人材育成の体制をつくっていくことが重要であるという課題があります。
質問タイム
「医療型短期入所」と「福祉型短期入所」の違い
医療型
- 病院で空きベッドを利用した短期入所や、有床診療所での短期入所。
- 看護師配置は7:1であるため、7人の利用児に対して、1人の看護師。しかし、医療的ケア児の場合、重症度や医療的ケアを考慮すると、児7人を看護師1人で看ることはできない。
- 介護職は配置人数にカウントされないので、看護師で配置する必要がある。
福祉型
- 配置は、6人の利用児に対して、1人の介護職。
- 看護師は、連携型をとることができるので、看護職員1人を配置、もしくは、外部から(訪問看護など)の看護師でも良い。
- 福祉型と福祉強化型がある。福祉型は、看護師の配置義務はないので、外部から(訪問看護など)の看護師でも良い。福祉強化型は、看護師の配置義務がある。
「やまぼうし」での実際の利用児数と人員配置
- レスパイトハウス「やまぼうし」の職員
介護職7〜8名、看護師7〜8名 - 日中
利用児:職員(介護職・看護師)=1:1 - 夜間
利用児:職員=1:1
まだ夜間帯の利用は2名しか実績がないので、利用児数が増えた時の人員配置は今後の課題。
開設までの準備
資金
- 建設費は、法人の自己負担。
- 1人の利用児を1泊お預かりをした時、施設の収入は約7,000円しかないので、松戸市に支援を要請し、7,000〜12,000円の補助をしてもらっている。
- 定員10名だが、毎日満員にはならないので8名で計算すると、月の収入は700〜800万円にしかならない。
人件費がかかるので、400〜500万円/月の赤字となる計算になっている。
つまり、年間2,000〜3,000万円の赤字になる前提であるので、法人が持ち堪えられる期間に制度を変えないと継続できない。
どれくらいの赤字になり、どれくらいの財源が必要であるか、データがないと厚労省も予算を獲得しにくい部分ではあると思うので、改定に向けてデータを集めるためにも、この時期の開設とした。
※医療機関でのレスパイト入院は約48,000円
医療型短期入所は約30,000円
福祉型短期入所は約7,000円
同じ子でも、預かる場所が違うだけで、施設への収入がこんなにも違う。
福祉型短期入所は採算が取れないと言われている理由である。
宿泊することへの準備
- 家での生活を知るために、訪問させていただいた。
- 介護職の1号研修の準備も進めた。
1ヶ月稼動してみての課題
- 利用児の重症度や医療的ケアの多さは、個人差が大きい。
手順がスタッフ間で共有できる仕組みを作らなければいけない。
最後にひとこと
制度を変えて、皆さんがレスパイトに参入できる環境をつくっていきたいです。
「やまぼうし」ができて終わりではなく、他の地域でも運営できる仕組みをつくっていくことが大事だと思っていますので、皆さんで協力していけると嬉しいです。
医療法人財団はるたか会
専務理事 飯倉いずみ様
ありがとうございました。